12月21日にブログ開設しました。

ビジネスライティングの科学【論文レビュー】

私は研究者として論文を書いたり、このようにブログ記事を執筆したりしていながら、自分の文章力にかなりのコンプレックスがある(ちなみに、ブログは自分の頭の整理だけでなく、文章力を鍛える場として活用している)。

文章力の低さによって査読を落とされることも少なくないと考えており、文章力がもっと高ければこれまでの人生でももっと得をしていたのではないかとも思っている。

後述するように、半分は物書きとしての仕事がある私のような研究者だけでなく、通常のビジネスにおいても魅力的なライティングの能力は非常に有効である。

この記事では、ハーバードビジネスレビューに記載された、文章(ライティング)に関する下記の論文の概略と私の補足と考えを少しを載せている。

ビル・バーチャード(2021)「ビジネスライティングの科学ー読み手を引き込む8つのポイントー」『ハーバードビジネスレビュー』2021年10月号

ハーバードビジネスレビュー2021年10月号
4.5

ビジネスにおけるライティングの重要性

近年、日本の大学においても(アカデミック)ライティングの重要性が叫ばれ、ライティング教育が行われるようになってきている。「大学における教育内容等の改革状況について」(文部科学省, 2017)では、661大学(88.6%)がアカデミックライティングのプログラムをカリキュラムに組み込んでいるとしている。

しかしながら、アメリカを含めた欧米の大学では、ライティング教育がより早い段階から大学教育のプログラムに組み込まれており、一般教育課程の必修科目として大学に定着している。

そうした意味では、その重要性が認知されつつありながらも、欧米に比べて日本はライティング教育は遅れているといえるだろう。

魅力的な文章を書く力は、ビジネスにおいても非常に重要である。ここで紹介するライティングに関する論文の作者であり、ライティングコーチの筆者は下記のように述べている。

”高度な文章力は、あらゆるビジネスパーソンに欠かせない。高度な文章力は、同僚・部下・上司との効果的なコミュニケーションをとるためにも、提案するアイデアや提供する商品・サービスを売り込むためにも不可欠だ。”

良い文章・ライティングとは?問いに対して、”芸術”としてではなく、神経生物学や心理学といった”科学”的な証拠の観点から答えをまとめているのがこの論文である。

筆者は科学的な証拠に支えられた魅力的な文章とは、下記の8つのSという要素を持つとしている。

  1. Simple(シンプルである)
  2. Specific(具体的である)
  3. Surprising(意外性がある)
  4. Stirring(気持ちを動かす)
  5. Seductive(惹き付ける)
  6. Smart(賢いと感じさせる)
  7. Social(社会的である)
  8. Story-driven(物語性がある)

この8つのSについてそれぞれ概略を見てみよう。

文章を魅力的にする8つのS

Simple(シンプルである)

短い文書、馴染みのある言葉、すっきりとした構文であれば、読み手は意味を理解しやすいく、読むのに時間がかからず、誤解なく意図が伝わりやすくなる。

どうすれば良いのかというと、凝ったアイデアから余分なものを取り除くと説得性が増すことが重要。たとえば、「無関係な言葉を取り去ったり、能動態を使う」「ー本当に重要なものまで掘り下げて、脇道に逸れるような詳細は捨て去る」ことが戦略として挙げられている。

Specific(具体的である)

文章が具体的であると、帯状に広がる脳の回路が覚醒する。すなわち、脳に意味をしっかりと処理させる要因になる。たとえば、「鳥」ではなく「ペリカン」、「きれいにする」ではなく「ふきとる」の方が良い。

戦略としては、「より鮮明かつ手に取るようにわかる表現を使うと、読み手の満足につながる」「読み手が文章中のメッセージを記憶するように、覚えやすく端的なフレーズにする」といった感じだ。

後者の例としては、「ティッピングポイント」「ブルー・オーシャン戦略」「ブラック・スワン」などが挙げられている。確かに、端的で分かりやすく、印象に残りやすい。

Supriding(意外性がある)

意外性があるとメッセージが心に残り、読み手が学び、情報を保持するのに役立つ。そのために必要なこととしては、「読み手にとって予想できない内容にする」ことである。

または、「普段とは違う言葉の使い方を読み手は高く評価するようになる」。例としては、ジョン・マクフィーが第二次世界大戦を「テクノロジーのくす玉」と例えることが挙げられている。

Stirring(気持ちを動かす)

人間は思ったよりも論理ではなく勘定で説得される傾向がある。言葉の意味を理解するよりも、感情的な意味合いを処理する方が早く、感情的な文章に反射的に反応するからである。

どうすれば良いかというと、「感情と考えを一緒にまとめた言葉を挟む」ことが有効だ。たとえば、「競合他者に挑む」よりも「ライバルを出し抜こう」と言った方が読み手の気持ちが動かされる。

また、「例えを使うとさらに効果的」である。「何と良いアイデア」と述べるのではなく「珠玉のように輝くアイデア」とする。

大事なのは、文を作るまえに、事実とともに自分の感情もしっかり把握することだ。メッセージに対する熱意は、文面に表れる。自分の感情を表現すれば、読み手はそれを感じ取る。

Seductive(惹き付ける)

科学的にも、人間は元来、将来の期待を楽しむように出来ている。たとえば、休暇の計画を立てている時の方が、休暇の後よりも幸福度が高いといったことで、このことは「予期効用」と言われている。

「次にどうなるのか」という好奇心を刺激することで「予期効用」は発揮される。たとえば、この論文でいうと、最初に文章を魅力的に見せるためには「8つのS」が重要と述べることで、読み手に「8つのS」とは何だろうか?と予想・期待させることが挙げられる。

もしくは、報告書などの最初に「問い」や「謎」を提示することで、その答えを読み手に予想させることで文章に惹き付けることができる。

Smart(賢いと感じさせる)

読み手に自分は賢いと感じさせること、すなわち「あ、そうか」と思わせる瞬間を与えることで、読み手の脳は活性化し、文章は魅力的となる。

そのためには、「これまでにない言い方で区別すること」が重要だ。元IBMのCEOであるジニ・ロメッティは「未来は、人間対機械の世界ではありません。人間プラス機械の世界になるのです」といった文章で「人間プラス機械」という区別を表したようなやり方が参考になる。

また、「永続的で普遍的な真実を思い起こさせるように、実用的なメッセージを作成すること」ができればなお良い。誰にでも当てはまる普遍的なメッセージであり、かつそれをこれまでと異なる表現とすることで人は賢いと感じる。

Social(社会的である)

我々の脳は、人間同士のつながりを渇望する仕組みになっている。文章の中に人々や彼らの考えについて活きいきとした描写があれば、読み手の報酬系が刺激される。

「書き手の足跡を文章の中でより多く明らかにすること」が有効であり、声・世界観・語録・ウィット・構文・詩的なリズム・完成を考える必要がある。

読み手を関与させるもう一つの方法は、「あなたのような二人称を使うこと」だ。これは、技術的あるいは複雑な題材を説明する時にことのほか役に立つ。

Story-Driven(物語性がある)

物語は短編的なものでも、読み手の脳の深い部分を魅了する。物語をコミュニケーションに組み込むと、読み手は売り込みにもより好ましい印象を持ち、語り手の信頼性や説明の正当性を評価しやすくなる。物語性は営業や資金調達などに特に有効だ。

まとめ

上記で述べられている「8つのS」一つ一つはそれほど驚くべきものではなく、行ってみればそれはそうだよなというものであるように思われる。しかし、日々の業務の中でこれらを実際に実践できているかと言われればかなり疑問である。

上記の文章を魅力的にするための8つのSはそれぞれ神経生物学や心理学における証拠に裏付けられており、実践してみて損はないといえる。私は今後それぞれを意識しながら日々文章を書いていきたいと考えている。

なお、原本には、上記それぞれの主張が、どのような科学的根拠にもとづいているのか?また、8つのSの具体例について詳しく書かれている。是非、実際に読んで欲しい。

ハーバードビジネスレビュー2021年10月号
4.5

【参考文献】

文部科学省(2017)「平成 27 年度の大学における教育内容等の改革状況について ( 概要 )」

ビル・バーチャード(2021)「ビジネスライティングの科学ー読み手を引き込む8つのポイントー」『ハーバードビジネスレビュー』2021年10月号

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