ファイナンス(経営財務)は,投資家や企業の財務部門の担当者などのファイナンスを専門とする人だけでなく,今やファイナンスを専門としないビジネスパーソンにとっても必要な知識となりつつあります。これは,これまでファイナンスを軽視していた日本企業においても同様です。
ファイナンスとは「お金の流れの側面から企業の活動を管理・評価する学問」です。具体的には,
- 事業投資の管理・評価
- 資金調達の管理・評価
- 資金分配(ペイアウト)の管理・評価
- 企業価値の管理・評価
を行うための知識です。これら知識を通じていかに効率的に「企業価値を高めるためには何をすべきなのか?」を考える学問となります。
したがって,企業の究極の目標を「企業価値を高めること」だとすると,ファイナンスの知識を持つことによって,企業に貢献する(企業に対して付加価値を提供する)ためには何をすべきかがわかるようになり,会社内で評価されやすくなります。
また,株式投資を行う際には企業の価値が何によって決まるのかを知ることが絶対的に必要となりますし,投資資金を適切に管理するためにはファイナンスの知識が必要です。
しかしながら,ファイナンスはやや取っつきづらいがあり,何から学び始めれば良いかが分からない人もいるのではないでしょうか?また,上記の理由によるファイナンスへの関心の高まりから,ファイナンスに関する参考書が書店に溢れており,どの参考書が有用なのかわからないような状況になっています。
この記事では,
- 大学でファイナンスを学びたいと思っている大学生
- 企業で効率よく出世をしたいと思っているビジネスパーソン
- これから株式投資をしたいと考えている人・株式投資で稼ぎたいと思っている人
向けに,大学で会計・ファイナンスを教えている筆者が,ファイナンスを学習する際に役に立つ参考書を段階別に紹介しています。
ファイナンスを学び始める前に(財務会計の知識がない人)
ファイナンスは企業のお金の流れを取り扱う学問なので,基本的に財務諸表を使うことになり,会計用語が多用されます。そのため,財務会計の知識を事前に知っておくとより効率的にファイナンスを学ぶことができます。
そのため,財務会計の知識がない人は,事前に下記のような財務諸表や財務会計に関する本をさらっと通読しておくことをオススメします。
貸借対照表、損益計算書など財務諸表類について、基本から最新の改正までコンパクトに解説。実務家が知りたいツボをおさえ、財務の初心者からベテランまで幅広く支持されてきたロングセラーの最新版。現在稼働している日経文庫で最古かつ最大部数。現在も着実に増刷を重ねている。
この参考書は新書なので直ぐに読めます。財務諸表(損益計算書・貸借対照表)の見方・要点についてかなり完結に書かれています。また,実務家が知りたいツボも押さえていると言えます。
そのため,財務会計をそれほどしっかりと学びたい訳ではなく,ファイナンスを中心に学びたい人にとってはかなり有用な参考書となっております。
その反面,その簡潔さから読み物としては面白いわけではなく,また財務会計の理論的なところは紙幅の関係上,大幅に端折って書かれているため,財務会計の深い知識は得ることはできません。
そのため,企業の財務部門の担当者の方や大学でしっかりとファイナンスを学ぶための基礎を得たいという人は下記の参考書をオススメします。
この『財務会計・入門』では,より詳しく財務会計の理論面まで踏み込んでおります。だからといって冗長なところはなく,必要最小限の説明で簡潔に財務会計の基礎を網羅的に説明しています。
また,特徴としては企業の活動毎にそれに対応した会計処理と考え方がまとめられており,企業の経済的実態と会計とのリンクが分かりやすい構造となっています。
ファイナンス初級者向け参考書
それでは,本題のファイナンスについて見ていきましょう。
まず最初は下記の『コーポレートファイナンス入門』のような新書をさらっと読むことをオススメします。
新書なので,深いところまでは学べませんが,若干の知識があるのとないのでは,より専門的な参考書を読むスピードや理解度に大きな差ができます。そのため,まずは新書にさらっと目を通してみましょう(時間を掛けて読み込む必要はありません)。
上記の『コーポレートファイナンス入門』はファイナンスに関するいちばんわかりやすい入門として高い評価を受けてきた参考書です。
実務家向けには下記の書籍もおすすめです。
こちらの『戦略的コーポレートファイナンス』は,実務的観点からファイナンスに関する問いをたて,それを理論的に解説するという形式が取られており,すでに実務でファイナンスの問題・問いにぶつかった人ならば,その問いが理論的にどう説明され,解決されるのかということがすんなり入ってくるのではないかと思います。
ファイナンス中級者向け参考書
上記の初級者向け参考書を読み終わった人や,もともとある程度のファイナンスの基礎的な知識がある人は下記の参考書に移りましょう。
こちらの『企業価値の神秘』は,元実務家であり現大阪市立大学教授の宮川先生の企業価値評価の名物講義をもとにした参考書となります。
そのため,コーポレートファイナンスの理論の思考回路(考え方)が非常にわかりやすく解説されております。また,「企業価値はなぜ経営の根幹か?」「配当と自社株買いの株主価値に与える影響」などの疑問や誤解を理論をつかってしっかりと解きほぐしています。
実務家と学生双方にとって,ファイナンス理論の面白さ・神秘を感じることができる内容となっています。
さらに深く学びたい方には下記の参考書がおすすめです。
この『コーポレートファイナンス 上』は世界のMBAにおいてファイナンス教育の決定版と言える書籍です。非常に分厚い本であり,なんと832pもあります。かなりボリューミーな内容ですが,その分,ファイナンスに関して基本的なところは過不足無く抑えられています。
内容も非常に分かりやすくまとめられており,私が最初に読んだのは大学学部2年生の時でしたがファインアンスの面白さを感じ手垢が付くまで読み込んだ記憶があります。
基本的にはこの本を一冊読めば,ファイナンスの基本的な考え方は抑えられると言えるでしょう。
ファイナンス上級者向け参考書
最後に上級者向けの参考書ですが,上記の『コーポレートファイナンス 上』を読んで理解していれば,基本的には個別トピックの専門書や論文を読んでいく必要があるため,詳しくは紹介することは出来ません。
あえて挙げるとするならば,下記の参考書でしょう。
アメリカのMBA、ロースクールで定番のファイナンスの教科書。翻訳は第6版が2002年、第8版が2007年で、ともに上下合計で3万部を超えるロングセラー。第10版は、リーマン・ショックとそれに続いた世界金融危機、ヨーロッパを襲ったソブリン危機後の2011年春に原書が出版されており、金融を取り巻く環境が激変したことを盛り込んでいる。
こちらは上述の『コーポレートファイナンス』の下巻となります。ファイナンスの基本的な理論を網羅的に取り扱った上巻に対して,下巻においてはオプションやリース,M&Aに関するファイナンスの適用などについて個別に掘り下げています。
まずは目次を見てみて,仕事や研究上参考になりそうな章があれば読んでみることをオススメしますが,ファイナンスの考え方についてとりあえず学びたいという人は上巻でとまっても基本的には問題無いと思います。